大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成5年(行ウ)274号 判決 1994年10月31日

第二七四号事件原告 渡邊慈済

第二九九号事件原告 今野成敏 ほか四名

第二七四号・第二九九号事件被告 文部大臣

代理人 足立哲 森和雄 ほか三名

第二七四号・第二九九号事件被告参加人 日蓮正宗

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実および理由

第一原告らの請求

被告が、審査請求人日蓮正宗外五名に対して平成五年四月八日付けでした、神奈川県知事(以下「県知事」という。)による大経寺の規則の変更の認証を取り消す旨の裁決を取り消す。

第二事案の概要

本件は、宗教法人である大経寺が、包括宗教団体である日蓮正宗との被包括関係の廃止に係る規則の変更を行い、県知事が、宗教法人法(以下「法」という。)二八条に基づき、右規則変更の認証(以下「本件認証」という。)をしたところ、被告が、本件認証を取り消す旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をしたため、大経寺の代表役員又は信徒の地位にあるとする原告らが、被告に対し、右裁決の取消しを求めて提訴した事案である。

一  当事者間に争いのない事実等

1  大経寺は、日蓮正宗を包括宗教団体として昭和五一年七月二六日に設立された宗教法人であり、その主たる事務所は、神奈川平塚市南豊田一九四番地に所在する。

平成五年(行ウ)第二七四号事件原告渡邊慈済(以下「原告渡邊」という。)は、大経寺の代表役員の地位にあった者であり、同第二九九号事件原告らは、いずれも大経寺の信徒である。

2  法二六条一項は、宗教法人は、規則を変更しようとするときは、規則で定めるところによりその変更のための手続をしなければならない旨定めているところ、大経寺規則(以下「変更前規則」という。)は、責任役員の地位及び規則の変更の手続について、次のような規定を設けていた。

(一)  この法人には、四人の責任役員を置き、そのうち一人を代表役員とする(六条)。

(二)  代表役員以外の責任役員(以下「総代」ということがある。)は、日蓮正宗の代表役員の承認を受けなければならない(八条三項)。

(三)  この規則を変更しようとするときは、責任役員会において責任役員の定数の全員一致の議決を経た後、布教区宗務支院長の同意を得て、日蓮正宗の代表役員の承認及び県知事の認証を受けなければならない(三三条)。

3  原告渡邊は、平成四年一〇月一七日、大経寺の責任役員である横尾島吉、波多野俊久及び齊藤幸雄(以下「横尾ら」という。)を解任し、平成五年(行ウ)第二九九号事件原告今野成敏、同佐藤義雄及び同高梨幹哉を新たな責任役員(以下「本件責任役員」という。)に選任した。なお、本件責任役員は、いずれも日蓮正宗の代表役員の承認を受けていない。

原告渡邊及び本件責任役員は、同日、大経寺の責任役員会において、日蓮正宗との被包括関係を廃止する旨の議決をした上、当該関係の廃止に係る規則の変更(以下「本件規則変更」という。)を議決した。

4  大経寺が、県知事に対し、法二六条一項に基づき、本件規則変更の認証を申請したところ、県知事は、平成五年二月五日、本件認証をした。

これに対し、日蓮正宗及び横尾らを含む大経寺の信徒五人が、被告に対し、本件認証の取消しを求めて審査請求をしたところ、被告は、平成五年八月四日、本件裁決をした。

5  本件裁決が本件認証を取り消した理由は、本件規則変更の議決に加わった本件責任役員は、いずれも、変更前規則八条三項に定める日蓮正宗の代表役員の承認を受けていないので、有効に選任された責任役員とは認められないから、本件規則変更は、同規則三三条に定める責任役員の定数の全員一致の議決を経ていないため無効であり、県知事は、これを認証すべきではなかったというものである。

二  争点

本件において、原告らは、被告は審査すべき範囲を逸脱して審査したものであり、また、本件責任役員の選任には日蓮正宗の代表役員の承認を要しないから、右選任は有効であるなどとして、本件認証を取り消した本件裁決は違法であると主張する。

本件の争点及びこの点に関する当事者双方の主張の要旨は、次のとおりである。

1  被告は、審査すべき範囲を逸脱して審査したか否か。

(一)  原告らの主張

(1) 法にいう認証とは、宗教法人の規則が法令に適合しているかどうかを審査し、その合法性を公に確認する行為である。

そして、宗教法人が被包括関係の廃止に係る規則の変更について所轄庁の認証を受けようとするときは、認証申請書及び変更しようとする事項を示す書類(以下「申請書等」という。)に添えて、規則の変更の決定について規則で定める手続を経たことを証する書類、法二六条二項による信者その他の利害関係人に対する公告をしたことを証する書類及び当該関係の廃止について包括宗教団体に通知したことを証する書類(右各書類を、以下「添付書類」という。)を提出し(法二七条)、所轄庁は、右の提出書類に基づき、その変更しようとする事項が法その他の法令に適合しているかどうか及びその変更の手続が法二六条の規定に従ってなされているかどうかを審査し、右各要件を備えていると認めたときは、当該規則の変更を認証しなければならない(法二八条)。また、国及び地方公共団体の機関は、宗教法人に関して法令の規定による正当の権限に基づく調査、検査その他の行為をする場合においては、宗教法人の宗教上の特性及び慣習を尊重し、信教の自由を妨げることがないように特に留意しなければならない(法八四条)。

右のような認証の性質、法の各規定及び信教の自由を保障する憲法二〇条等に照らすと、宗教法人の規則の変更の認証のためにする被告の審査は、申請書等及び添付書類の記載に基づく形式的審査の範囲に限定されるというべきであり、このことは、審査請求がされた場合において審査庁がする審査についても同様であるというべきである。

しかるに、被告は、大経寺から申請書等及び責任役員会議事録、責任役員就任受諾書等の添付書類が外形上もれなく提出され、右各書面中、真正に作成されたものであることが疑わしいものは存しないのに、形式的審査の範囲を逸脱し、本件責任役員が日蓮正宗の代表役員の承認を受けたかどうかという実質的審査に立ち入ったものである。

仮に、例外的に、証明事実の虚偽であることが所轄庁及び審査庁に知れている場合や所轄庁及び審査庁において証明事実の存否に理由ある疑いをもつ場合には実質的審査が許されるとしても、その範囲は、証明事実の存否等の事実的側面に限られるべきであるところ、被告は、右の範囲を逸脱し、本件責任役員の選任の効力という法的判断を要する事項についてまで実質的審査をしたものである。

したがって、被告は、審査すべき範囲を逸脱して審査したのであるから、本件裁決は違法である。

(2) 被告が本件認証の適否を審査するに当たっては、本件認証の時点を基準として、本件認証が違法か否かを判断すべきであるところ、右時点において、県知事が形式的審査によってした本件認証には何ら違法がないのであるから、本件認証を取り消した本件裁決は、違法である。

(二)  被告の主張

(1) 宗教法人がその規則の変更をしようとするときは、当該規則の定める規則の変更のための手続を経た上、所轄庁の認証を受けなければならないところ(法二六条一項)、右認証の申請を受けた所轄庁は、変更しようとする事項が法令の規定に適合していること及び変更の手続が法二六条の規定に従ってなされていることの各要件を審査した上、右各要件を備えていると認めたときは、当該規則の変更の認証に関する決定をするものとされている(法二八条、一四条一項)のであるから、所轄庁は、当該宗教法人がその規則で定める規則の変更の手続を履践したか否かについて審査できるものである。

したがって、所轄庁及び審査庁は、申請書等及び添付書類が形式上調っていたとしても、その証明事実の存否に疑いがある場合には、当該事実の存否について実質的審査権を有するというべきである。

本件において、日蓮正宗らが被告に対して審査請求をし、本件規則変更が大経寺の責任役員の定数の全員一致の決議を経ていない旨の事実が認められ、添付書類の記載が真実に反することが判明したのであるから、本件認証を取り消した本件裁決は、適法である。

(2) 違法判断の基準時がいつかという問題と審査庁がいかなる証拠に基づいて審査するかという問題は、全く別の問題であり、被告による審査が本件認証当時の事実関係及び法律関係を基準として判断されるとしても、その審査資料が本件規則変更の認証の申請に係る添付書類に限定されるわけではない。

2  本件責任役員の選任には、日蓮正宗の代表役員の承認を要するか否か。

(一)  原告らの主張

(1) 日蓮正宗は、専ら、被包括関係の廃止を妨害するために、本件責任役員の選任についての承認権を不当に行使することが明らかであるから、右選任には、日蓮正宗の代表役員の承認は不要である。

ア 宗教団体がいかなる宗派に属し又はいかなる宗派から離脱するかは、信仰の根本に関わる宗教上の事項であるから、被包括宗教団体は、憲法二〇条が保障する信教の自由に基づき、被包括関係の廃止を自由になし得るものであり、これに対する妨害行為は排除されるべきである。

そのためにも、被包括関係の廃止に係る規則の変更の手続について定める法二六条一項後段、当該関係の廃止に係る不利益処分の禁止等を定める法七八条は、包括宗教団体による妨害行為を例示的に規制したものと解すべきであり、これらの規定の趣旨に照らし、包括宗教団体による他の妨害行為も規制すべきである。

したがって、包括宗教団体が被包括宗教団体の責任役員の選任についての承認権を有し、かつ、被包括関係の廃止に係る規則の変更には責任役員の全員一致を要する場合において、被包括宗教団体の代表役員や圧倒的多数の信徒が当該関係の廃止の意向を有しており、他方、包括宗教団体が、被包括宗教団体の管理運営という観点からではなく、専ら、当該関係の廃止を妨害するために、右の承認権を不当に行使することが明らかであるときには、法二六条一項後段及び七八条の類推適用により、被包括宗教団体の責任役員の選任について包括宗教団体の承認は不要であると解すべきである。

イ 大経寺は、創価学会員の信仰活動に資する目的で、創価学会から土地及び建物を寄進されて建立された寺院であり、大経寺の信徒の圧倒的多数は創価学会員であり、各種宗教行事及び布教活動は、右会員によって運営され、大経寺の財政は、右会員からの供養によって賄われ、大経寺の責任役員は、右会員から選任されるのが慣行であった。

ところが、日蓮正宗は、創価学会名誉会長である池田大作を法華講総講頭の職から実質的に罷免するなど、創価学会に対して不当な措置をとったり、重大な教義違反を侵すようになった。

このような背景の下で、大経寺の代表役員である原告渡邊や信徒の圧倒的多数である右会員らは、日蓮正宗との被包括関係を廃止する旨の意向を有するに至ったが、日蓮正宗は、原告渡邊が右会員である信徒の中から選定した責任役員の承認を拒否するとともに、法華講員である信徒の横尾らを責任役員に選任するよう命じ、同人らに、日蓮正宗宗制、宗規等を遵守する旨の誓約書を提出させるなどした。

右のように、本件において、大経寺の代表役員や信徒の圧倒的多数が日蓮正宗との被包括関係を廃止する旨の意向を有しており、他方、日蓮正宗は、専ら、当該関係の廃止を妨害するために、本件責任役員の選任についての承認権を不当に行使することが明らかであるから、右選任には、日蓮正宗の代表役員の承認が不要であるというべきである。

(2) 大経寺の責任役員は、大経寺が法人格を取得して以来、代表役員が創価学会員と相談して選定し、日蓮正宗がこれを自動的に承認するという方法で選任されてきた。また、日蓮正宗から大経寺の責任役員に対して交付される承認状は、日蓮正宗の代表役員名義ではなく、日蓮正宗管長名義で作成され、大経寺から日蓮正宗に対して提出される承認願のあて先も、日蓮正宗管長とされている。

このような承認の実態に照らすと、変更前規則八条三項は、既に死文化したものというべきである。

仮に、右の承認に何らかの意味があるとしても、形式的、儀礼的なものにすぎず、届出程度の意味しか有していないというべきである。

したがって、本件責任役員の選任には、日蓮正宗の代表役員の承認が不要であるというべきである。

(3) 原告渡邊は、大経寺の信徒の圧倒的多数の意思を反映して本件責任役員を選定したのであり、同人らが責任役員の地位に就くことは、大経寺の運営上何ら支障がなく、むしろ、従前の責任役員の選任の慣行にも合致するものである。それにもかかわらず、日蓮正宗は、専ら、大経寺の被包括関係の廃止を妨害するために、本件責任役員の選任について承認をしなかったのであり、このことは、権利の濫用に当たるというべきである。

したがって、本件責任役員の選任について、日蓮正宗の代表役員の承認があったものとみなすべきである。

(二)  被告の主張

(1) 責任役員の選任自体は、本来、宗教法人の通常の管理運営に関わる事項であって、被包括関係の廃止を目的として行うものではないから、仮に包括宗教団体に原告らの主張に係る意図があったとしても、法二六条一項後段及び七八条の趣旨とは直接関係がない。

また、仮に、原告らが主張するように、被包括宗教団体の責任役員の選任について、包括宗教団体の代表役員の承認が必要な場合と不要な場合とがあるとすると、所轄庁及び審査庁は、そのいずれの場合に当たるかについて審査をしなければならないことになるが、被包括宗教団体が包括宗教団体との被包括関係を廃止するか否かの問題は、被包括宗教団体にとって教義の核心にも関わる極めて重大な宗教上の問題であり、被包括宗教団体の代表役員、責任役員、信徒等の意向、包括宗教団体の意図、行動等の点は、所轄庁及び審査庁の審査権限の範囲外の事項であるというべきである。

そうすると、被包括関係の廃止に係る規則の変更の手続において、規則所定の責任役員の選任の手続が不要となる旨の特別の規定が法にない以上、本件責任役員の選任には、日蓮正宗の代表役員の承認が必要であるというべきである。

(2) 大経寺は、平成二年一二月二〇日付け及び平成四年一〇月一七日付け各総代改選承認願において、日蓮正宗の代表役員と同一人である日蓮正宗管長に対し、日蓮正宗宗規二三五条に基づき、責任役員の選任についての承認を申請している。

このことからも、変更前規則八条三項が死文化したとはいえないことは、明らかである。

第三争点に対する判断

一  争点1(被告は、審査すべき範囲を逸脱して審査したか否か。)について

1  宗教法人は、被包括関係の廃止に係る規則の変更をしようとするときは、規則で定めるところによりその変更のための手続をするとともに、信者その他の利害関係人に対し、当該規則の変更の案を示してその旨を公告し、右公告と同時に当該関係を廃止しようとする宗教団体に対し、その旨を通知し、さらに、その規則の変更について所轄庁の認証を受けなければならない(法二六条一項ないし三項)。そして、宗教法人は、右の認証を受けようとするときは、申請書等及び添付書類を所轄庁に提出して認証を申請し(法二七条)、右の申請を受理した所轄庁は、その変更しようとする事項が法その他の法令の規定に適合しているかどうか及びその変更の手続が法二六条の規定に従ってなされているかどうかを審査し、右各要件を備えていると認めたときは、当該規則の変更の認証に関する決定をしなければならない(法二八条一項、一四条一項)。なお、所轄庁は、認証の申請を受理した日から三月以内に、認証に関する決定等をしなければならない(法二八条二項、一四条四項)。

右の各規定に照らすと、宗教法人の規則の変更の認証のためにする所轄庁の審査は、申請書等及び添付書類の記載によって、申請に係る事項が前記各要件を満たしていることが証明されているか否かを審査すべきものであるというべきである。

したがって、申請に係る事項を証明するために提出を要する添付書類は、証明事実が真実存在することを認めさせるに足りる文書でなければならないから、単に形式的に証明文言の記載がある文書が調っているだけでは足りないというべきであり、また、形式上証明書類が存するとしても、証明事実の虚偽であることが所轄庁に知れているときはもちろん、所轄庁において、証明事実の存在を疑うに足りる理由がある場合には、その疑いを解明するために、当該事実の存否について審査することも許されるというべきである。このことは、審査請求がされた場合において審査庁がする審査についても、同様である。

本件において、変更前規則三三条は、規則の変更の手続について、大経寺の責任役員の定数の全員一致の議決を経なければならない旨定めているところ、日蓮正宗らから、本件規則変更の議決に加わった本件責任役員は、いずれも、日蓮正宗の代表役員の承認を受けていないので、有効に選任された責任役員であるとは認められず、本件規則変更は、大経寺の責任役員の定数の全員一致の議決を経ていないから無効であるとして、本件認証の取消しを求める審査請求がされ、現に、本件責任役員が日蓮正宗の代表役員の承認を受けていないことについては当事者間に争いがないのであるから、被告において、本件規則変更が法二六条及び変更前規則三三条所定の手続に従ってなされているかどうかを疑うに足りる理由があったものと認めることができる。

そして、被告が、本件規則変更が右手続に従ってなされているかどうかを審査するに当たっては、本件責任役員が日蓮正宗の代表役員の承認を受けたかどうかを審査することが不可欠であったのであるから、被告が右の点について審査したことは相当であるというべきである。

2  これに対し、原告らは、宗教法人の規則の変更の認証のためにする被告の審査は、申請書等及び添付書類の記載に基づく形式的審査の範囲に限定されるべきであると主張する。

もとより、宗教法人の自治は尊重されなければならず、所轄庁及び審査庁がこれを侵すことが許されないことはいうまでもない。しかし、宗教法人が不特定多数の者の利益を目的とする公益法人であり、社会的影響力を有していることなどにかんがみると、所轄庁は、前記のような場合には、当然、単なる形式的な書類審査にとどまらず、実質的審査権を有するものというべきである。

したがって、原告らの右主張は、採用することができない。

3  また、原告らは、仮に、例外的に実質的審査が許される場合があるとしても、本件責任役員の選任の効力という法的判断を要する事項についてまで審査することは、被告の審査すべき範囲を逸脱したものであると主張する。

しかしながら、本件責任役員が日蓮正宗の代表役員の承認を受けたかどうかということ自体は、特段の法的判断を要する事項ではなく、客観的、外形的な事実であるから、所轄庁及び審査庁は、右事実の有無について、容易に判断することができるものというべきであり、被告が右の点を審査することをもって、審査すべき範囲を逸脱したものということはできない。

したがって、原告らの右主張は、失当である。

4  なお、原告らは、被告が本件認証の適否を審査するに当たっては、本件認証の時点を基準として、本件認証が違法か否かを判断すべきであるところ、右時点において、県知事が形式的審査によってした本件認証には何ら違法がないのであるから、本件認証を取り消した本件裁決は違法であると主張する。

しかしながら、被告が審査するのが本件認証の適否であるとしても、被告は、本件認証時に存した証拠のみによって判断しなければならないわけではなく、本件認証当時の事実関係及び法律関係について自ら審査するなどして、その結果得られた証拠に基づいて判断することができることは、明らかである。

したがって、原告らの右主張は、採用することができない。

二  争点2(本件責任役員の選任には、日蓮正宗の代表役員の承認を要するか否か。)について

1  <証拠略>によれば、日蓮正宗宗規二三五条は、寺院または教会において総代を定めたときは、住職または主管よりこの法人の代表役員の承認を受けなければならないと定めていることが認められる。また、前記第二、一2のとおり、変更前規則八条三項は、大経寺の総代の選任について、日蓮正宗の代表役員の承認を受けなければならないと定めていることについては、当事者間に争いがない。

他方、法及び変更前規則において、大経寺の総代の選任について日蓮正宗の代表役員の承認を不要とする旨の特別の規定は見当たらない。

そうすると、本件責任役員の選任には、日蓮正宗宗則二三五条及び変更前規則八条三項に基づき、日蓮正宗の代表役員の承認を要するというべきである。

したがって、本件責任役員が日蓮正宗の代表役員の承認を受けていない本件において、本件規則変更が、変更前規則三三条に定める責任役員の定数の全員一致の議決を経たものとは認められないから、本件認証を取り消した本件裁決は、適法であることとなる。

2  これに対し、原告らは、大経寺の代表役員や信徒の圧倒的多数が被包括関係の廃止の意向を有しており、また、日蓮正宗が、専ら、当該関係の廃止を妨害するために、本件責任役員の選任についての承認権を不当に行使するような場合には、右選任について日蓮正宗の代表役員の承認は不要であると主張する。

しかしながら、仮に、原告らが主張するように、日蓮正宗の代表役員の承認が必要な場合と不要な場合とがあるとすると、所轄庁及び審査庁は、そのいずれの場合に当たるかについて審査しなければならないことになるところ、右のいずれの場合に当たるかを判断するには、被包括宗教団体の代表役員、責任役員、信徒等がいかなる意向を有するか、包括宗教団体が被包括関係からの離脱についていかなる意図を有し、いかなる行動をとるかなど、包括宗教団体と被包括宗教団体との間の紛争の実態や、両宗教団体の教義の違いなどの極めて重大な宗教上の問題に国の機関が関わらざるを得なくなるものといわざるを得ない。加えて、前記一1のとおり、規則の変更の認証のためにする所轄庁及び審査庁の審査が、原則として、申請書等及び添付書類に基づき、申請に係る事項の法令適合性及び手続の履践という形式面についてなされるという性質のものであり、また、審査期間にも制約があることなどにかんがみると、所轄庁及び審査庁は、右の点について審査権限を有しているとは到底解し得ないというべきである。

なお、原告らは、右の点は、いずれも客観的な事項であって、宗教上の教義の核心に立ち入ることなくして判断することができる旨主張するが、いずれにしても、前記のような承認の要否に関する実質的な事項について、所轄庁及び審査庁の審査権限が及ばないことは、前記のとおりである。

したがって、原告らの右主張は、採用することができない。

3  また、原告らは、日蓮正宗の代表役員による承認の実態からすると、変更前規則八条三項は死文化したものであるとか、届出程度の意味しか有していないとか主張する。

しかしながら、一般に、被包括宗教団体の規則において、責任役員の選任について包括宗教団体の承認を要する旨の規定がある場合には、仮に、現実には右規定が形骸化しているような運用がされているとしても、それは事実上のことにすぎないのであり、法が規則の変更の手続につき所轄庁の認証を必要としていることに照らすと、右規定が一見して明白に無効であるとか効力を失っているというような特別な事情がある場合を除き、右規定が死文化したとか届出程度の意味しか有していないということはできないというべきである。まして、本件において、大経寺は、平成二年一二月二〇日付け及び平成四年一〇月一七日付けで、日蓮正宗管長に対して総代改選承認願を提出し、右承認願には、いずれも日蓮正宗宗規二三五条に基づくものである旨の記載があること(<証拠略>)、日蓮正宗管長と日蓮正宗の代表役員とは同一人であること(この点については、当事者間に争いがない。)が認められるのであるから、変更前規則八条三項が死文化したということはできないといわざるを得ない。

したがって、原告らの右主張は、採用することができない。

4  さらに、原告らは、承認権の不行使は権利濫用に当たると主張するが、この点についても、前記2と同様、所轄庁及び審査庁は審査することができないというべきであるから、原告らの右主張は、採用することができない。

三  以上によれば、原告らの主張は、いずれも失当であり、他に本件裁決を違法とすべき事由を認めることはできない。

よって、原告らの請求は、いずれも理由がないから、これを棄却すべきこととなる。

(裁判官 秋山壽延 竹田光広 森田浩美)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例